草野天平の「宇宙の中の一つの点」を読みました。
青空文庫で読みました →青空文庫図書カードNo51451 詩集『ひとつの道』 (1947年・十時屋書店・刊)掲載の一篇。底本は『定本草野天平前詩集』(1969年・弥生書店・刊)です。
草野天平は1910年(明治43年)生まれ。詩人の草野心平の弟です。
故郷の福島県から上京し、銀座で喫茶店を経営していました。妻が亡くなった後は、比叡山の僧庵に入り詩作を続けました。1952年(昭和27年)に亡くなっています。
宇宙の中の一つの点
草野天平
人は死んでゆく
また生れ
また働いて
死んでゆく
やがて自分も死ぬだろう
何も悲しむことはない
力むこともない
ただ此処に
ぽつんとゐればいいのだ
祖父母を送り、年老いていく母をみつめ。そして同じように年取っていく自分を思う時、自分はどんな最期を迎えるのだろうと考えます。
なぜか心がザワザワと波立ち、苦しいような恐ろしいような気分になります。
死はいつか誰にでも訪れるもの。でも若い頃は自分が死ぬなんて考えてもみませんでした。
ところが、肉親の死を経験して、やがて自分もと考えると、なんだかずっと死との距離が縮まったように思うのです。
そんな昨今、この短い詩を読んで、スーッと気持ちが軽くなりました。
嫌でも、拒否したくてもその時は必ずやってきます。恐怖におびえて縮こまって生きるよりは、一日一日を自分なりに精一杯生きて、毎日を楽しんでいけばいいのだと思ったのです。
詩人は僧だったのかどうかわかりませんが、晩年を比叡山の僧庵に住まい仏に帰依して過ごした人でしたから、禅の何ものにもとららわれないという世界の中に生きていたのだと思います。
人間は大きな宇宙の中の一つの点にすぎない、あれこれ思い悩むことはなく、日々を淡々と生きよと諭しているように感じます。
同時に、人間が大きな宇宙の小さな一点だとしても、それは貴重な一点でもあります。
ビッグバンからはじまった宇宙の歴史から、地球が生まれる確率を考えてみてください。
地球に生命が育つ環境ができる確率を考えてみてください。そして、海に落ちたアミノ酸から単細胞生物が生まれる確率を考えてみてください。生命が進化して人間に進化する確率を考えてみてください。
そして、母の卵子と父の精子が出会う確率を考えてみてください。気の遠くなるような偶然が重なって、私が存在しているのです。
そう考えると、自分が今ここに存在していることの奇跡を思わないではいられません。