冷泉家時雨亭文庫が10日8日に発表したところによりますと、東京都内の旧大名家の子孫のお宅で、源氏物語の最古の写本になる、定家本の「若紫」の帖が見つかったそうです。
定家本は、鎌倉時代に藤原定家が書き写した源氏物語で、青い表紙がついていることから「青表紙本」とも呼ばれています。
これまでに「花散里」「柏木」「行幸」「早蕨」の4帖がみつかっていましたので、新に「若紫」が加わり5帖になりました。
「若紫」は、後に光源氏の妻となる紫の上との出会いを描いた巻です。
光君が病気療養のためにでかけた山寺で、雀の子を逃がして泣いている幼い女の子を見かけて、心引かれ、保護者の祖母。尼君の意向を押し切って、強引に屋敷に引き取ってしまうという、現代ならば犯罪にもなりそうな経緯です。
女の子を自分好みに育て上げて妻にするという、男のロマンの例にもされますが(笑) 実は、この女の子は光君が密かに慕っている父帝の妻、藤壺女御に縁のある子供で、面影が似ているということから、意識してか、しなくてか、心引かれたものです。
藤壺女御は、亡くなった桐壺更衣の縁者で、面差しか似ていることから桐壺帝に望まれて入内しました。
光君は母上に似ているという藤壺女御を、母とも姉とも慕いながら成長して行き、やがては、道ならぬ恋にも発展してしまうのです。
面差しが似ているというだけで、身代わりにと望まれるのは、女性にとっていかがなものか。
このたあたりの、藤蔓が複雑に絡み合ったような物語展開も、源氏物語を楽しむのには面白いところかもしれませんね。
ちなみに、紫の上は光源氏の最愛の妻として愛されますけれど、最後まで幸せだったかというと、うーんと首をひねってしまいます。
紫の上は結局、正妻にはなれませんでした。光君が年取ってから、時の帝の懇願によって、女三の宮が降家することになり、身分差から正妻の座を譲ることになってしまいます。
夫からは「あなたが一番大切なのですよ」などど言われながらも、日陰の身にあまんじていなくてはならない気持ちはいかばかりだったのか。
紫の上は、仕方のないこととあきらめつつも、生きる気力をなくして行ったのかもしれません。