新川和江の「歌」を読みました。『新川和江詩集』(ハルキ文庫)の一篇です。
1983年から1999年に書いた「それから」という章に収められています。
新川和江は、1929年( 昭和4年)茨城県結城生まれの詩人。私の亡父の年齢と近く、同郷なので 、勝手に親しみを感じています。
この「歌」という詩は、おそらく詩人が子供を産んだ後に書かれたのではないかと推測するのですが、自分の子供を持つことができなかった私には、とてもうらやましい気持ちになりました。
はじめて授かった子を腕に抱いてそっと揺すっているうちに、自然に口からもれ出てくる歌。その慈しみの旋律は、荒れ狂う海でさえもなだめてしまうような優しさに満ちているのでした。
詩人は「おお そうでなくて なんで 子どもが 育つのだろう」と言っています。母親の心の底からわき上がる愛情だけが、赤ん坊の心を安定させて健やかに育むのです。
昔、妹が長男を出産して、母と私がお見舞いに行った時のこと、生まれたばかりの赤ん坊を抱かせてもらったことがあります。小さくて、軽くて、暖かくて、ほんのり甘い香りがしました。
妹の子はとりわけ可愛いです。でも、あの時、喜びの気持ちの一方で、こんなやわらかくて素晴らしいものを、なぜ私は手にすることができないないのだろうと、一瞬悲しくなったものでした。
今となってはもう望むべくもありませんし、40代後半にはきっぱりと、子供のいない人生を決断しましたので、それも運命と受け止めてはいます。
それでも、母になれなかったという、あの時の複雑な気持ちは、今でも忘れることはありません。
そんな、私の個人的な感傷もあって、この詩はうらやましく、そして、母の愛情がとても美しくまぶしく感じるのです。
<