桜間中庸の「ほろほろりん」を読みました。
青空文庫で読めます。 →図書カード:ほろほろほろりん
底本は『日光浴室桜庭中庸遺稿集』(1936ボン書店)
桜間中庸は1911年、岡山県生まれの童謡詩人です。早稲田大学在学中に早世しています。
ほろほろりん
桜間中庸
ほろほろりん
垣のそとを
どこのねえやだか
ゆきました
ほろほろりん
細いこゑで
赤ん坊あやして
ゆきました
ほろほろりん
月夜でせう
椿の花だか
おちました
童謡に近い詩でしょうか、各連の1行目の「ほろほろりん」に心惹かれました。やさしくて、やわらかくて、微かに耳に残る印象的な言葉だと思いました。
先日ご紹介した「金魚は青空を食べてふくらみ」もそうでしたが、何気ない言葉がイメージを膨らませてくれる、豊かな感性を持った詩人だと思います。
「ほろほろ」は、花や葉っぱ、人の涙などが静かにこぼれるようす。「はらはら」という表現もあります。食べ物などでは、噛んだ時にすぐにくずれてしまうような食感を言うこともありますね。
「りん」は接尾語ですかね、つるりん、ぽんぽこりん、など、言葉の最後について雰囲気を表しています。「ほろほろ」だけでも柔らかい響きを持つ言葉ですが、りんが添えられることでより一層柔らかさが強く感じられます。
垣根の外の道を、赤ちゃんを負ぶったねえやが通りかかったというのです。
ねえや(姉や、姐や)は、赤とんぼの童謡にも出てきますが、商家や農家など裕福なお家で住み込みで子守などをしていた若い女性です。当時は礼儀作法や家事などを習ったりもして、花嫁修業の意味もあったそうです。
そのねえやが、細い声で赤ちゃんをあやしながら歩いて行くのですね、時刻はもう夜。月も出て来たので、赤ちゃんはお腹が空いてぐずり出しているのかもしれませんね。
最後の行の「椿の花だか 落ちました」が、ちょっと気になります。「椿の花だか」なので、椿の花ではなくて、もしかすると他の花かもしれませんが、椿の花は枯れる前に、首からポタッと落ちるのですよね。桜の花のようにほろほろ落ちるわけではないのです。なんとなく不吉な感じもして、ねえやの将来が気になってしまいました。
ねえやは、子守の時期が終わると、嫁入り先を斡旋してもらってお嫁に行くことが多かったようです。その後、婚家で幸せに暮らした人もいるでしょうし、そうでない人もいたでしょう。
ただ垣根の外を通りかかっただけのねえやですが、なぜか、幸せな人生が送れるよう祈らずにはいられませんでした。