桜間中庸の「港にはいる汽船」を読みました。
青空文庫で読めます →図書カード:港にはいる汽船 底本は『日光浴室 桜間中庸遺稿集』(1936年ボン書房)
桜間中庸(さくらまちゅうよう)は、1911年生まれの詩人。早稲田大学在学中に童謡研究会に所属して、友人とともに「早稲田童謡」を創刊しました。1934年大学在学中に亡くなっています。
港にはいる汽船
桜間中庸
みなとの海は
みどりのびろうど
テープル掛けのやうな
白い船がはいる
汽笛はふくれてみなとにあふれる
みんなデッキで
こちらをみてる
空からひらりと
ハンケチ落ちた
ちがふあれだよ
白いかもめよ
汽船が入ってくる港のようすを詠った詩です。
海の色は日の光によって、その時の状況によって違って見えたりしますが、この時は緑のびろうどのような滑らかな海でした。
そんなびろうどの上をしずしずと入ってくるのはテーブルかけのような白い船。船の比喩にテーブル掛けというのは面白い発想だなと思います。
フリルのついたレースのテーブルクロスでしょうか、それだと、なんとなく船の窓が並んでいるように感じるかもしれませんね。
汽船は蒸気船のこと、詩人の時代は明治ですから、黒船来航以来開国してからさまざまな西洋文化が入って来て、日本人の生活が変わりつつあった時代。でも、汽船はまだ珍しかったのではないかと想像します。港には汽船見物の人がたくさんいたかもしれません。
もの珍しく眺めていると、ボーッと大きな汽笛。「汽笛はふくれて」は、印象的な表現です。汽笛のボーッは、耳のあたりにしばらくとどままって、あたり一帯に広がっていくような音です。あの感覚が「ふくれて」なのだなと感じました。
船から目をそらせずにずっと眺めていると、ふいに視線の隅に白いハンカチのようなものがひらりと見えました。よく見ると、空を飛んでいるカモメ。
「金魚は青空をたべてふくらみ」の詩の時も感じましたが、ゆったりと静かな状態でいる時、最後にサッと急な動きが表現されているのが、変化があって面白いです。