「サムライ」というパンを焼きました。持っている手作りパンの本に載っているレシピで、はじめて焼いたので、これで正解なのか間違ってるのかわかりませんが、クラスト(皮の部分)しかない中が空洞のカリカリしたパンです。
これは、フランス国立製粉学校教授のレイモン・カルベル氏が考案したパンです。
カルベル氏は、日本ではパンの神様と言われた方で、先日なくなられたもう一人のパンの神様、ビゴ氏を日本に紹介して、共にフランスパン店「ドンク」の開店に協力しました。
日本にバゲット(フランスパン)、クロワッサン、ブリオッシュなどを紹介した方です。
私は、基本的にほとんどフランスパン、特にバゲットは焼きません。なぜなら、とても難しいから。大好きなパンなんですけれどね。
中力粉と塩とイースト、水だけの基本的な材料だけで作るパンなのでごまかしが効かないのです。
一応、生地を作って形にはなりますが、生地扱いは難しいし、成型もシンプルなのにうまくいかない。それに、一番に不本意なのが、焼く直前に入れるクープ(切れ目)。
焼いた時にレモンの形にきれいに開くのが理想なのですが、一度も満足に入れられたことがありません。
パン職人さんなどは簡単そうに手早くクープを入れるのですが、やはり日々の修行のたまものなのですよね。たまにしか焼かない素人にはとても無理です。
そのくせ、うまく行かないとガッカリするので、滅多に焼かなくなりました(汗)
そんな私でも、なんとかできそうかなと思って作ってみたのが、このサムライでした。
生地作りでは、事前に発酵種を作っておいて、他の材料と合わせて生地作りをします。
フランスパンの材料は、先ほども書いた通り、中力粉と塩、イースト(発酵種)、水だけ。他に香り付けにモルトという麦芽粉末も少量入れています。
油脂が入らないので、ちょっと指にくっつくような感じの生地です。
発酵が終わった生地は、上新粉(米粉)を全体につけて長方形に伸ばします。
ベンチタイムの終わった生地を、スケッパー(パン生地を分割する器具)で不揃いにスパッとカットして、そのまま室温で自然発酵します。
この、スパッと切る作業が、武士の刀のイメージとして「サムライ」と命名されたのだそうです。
上新粉をつけて伸ばしている生地ですが、ややベタつくので、上手に「スパッ」とは行きませんでしたが、わざと不揃いに切るという成型が面白いです。
焼成は、フランスパンを焼く時と同じように、蒸気注入をして焼きます。
蒸気注入機能のない家庭用オーブンの場合は、天板に小石を敷き詰めて300度で熱し、お湯をかけて蒸気を出します。
蒸気を入れて焼くと、表面がパリパリに固くなり、表面にツヤが出ます。
サムライの場合は、上新粉をつけてあるので、あまりでツヤは出ませんが、表面の皮はパリパリで香ばしいおせんべいみたいな焼き上がりになります。
生地が薄いので、焼いた時の熱で中の熱い空気が膨張して、中が空洞になります。
クラム(パンの中身)がなくて、外皮だけのパンなので、バリバリ食感で、噛むことを楽しむパンです。
ただ残念なのは、フランスパン全体としてそうなのですが、おいしい時間が短いこと。お砂糖や油脂を入れていないこともあって、パリパリで食べられる時間はとても短いのです。
せいぜい2~3時間と言ったところでしょうか。どうしてもお部屋の湿気を吸いやすくて、すぐにしなっとなってしまいます。
もちろん、トーストすればパリッとなりますけれど、焼きたてのような食感に戻るのは難しいかなと思います。
パン屋さんでフランスパンを買う時も、回転の早いお店で焼きたてを買って、できるだけ早く食べるのが美味しく食べるコツです。
サムライと同じ生地でチーズ入りも作りました。角切りチーズを巻き込んでコッペ型にして焼いたものです。
蒸気を入れて焼きましたが、フランスパンではなくて普通のパンです。
スライスしてみるとフランスパンとの違いがよくわかります。正しいフランスパンは内相の気泡(穴)が大小不ぞろいで、スダチ(網目状の繋がり)の膜が薄くて透明感があります。
普通のパンの内相は、(成型にもよりますが)大きな穴がなく、スダチの膜が薄くて、気泡が細かくそろっていています。
そういう意味では、フランスパンになりきれなかったパンという感じですが、生地の改良材などを使っていないので、手作りの味わいということで目をつぶることにしましょう(笑)