山村暮鳥作の「手ぶくろ」を読みました。底本は『日本児童文学大系』第14巻(ぽるぷ出版)、親本は昭和16年(1941年)『春の膿のうた』(教文館)です。青空文庫で読みました。→図書カード:手ぶくろ
山村暮鳥(1884-1924)は、群馬県生まれの詩人、児童文学者。神学校在学中に詩や短歌の創作をはじめました。
卒業後はキリスト教の伝道師道師として各地をまわり布教活動をしながら作品を書きました。萩原朔太郎、室生犀星らと「にんぎょ詩社」を設立して機関誌「卓水噴水」を発行。
晩年は結核のため伝道活動を休止し、大正13年(1924年)40歳で亡くなりました。
手ぶくろ
山村暮鳥
あたしの
手套(てぶくろ)
桔梗色(ききやういろ)
雪のある日は
おもひだす
なくした
一つの手ぶくろよ
のこった
一つの手ぶくろよ
無くしてしまった手袋を詠んだ児童詩です。短い詩で、読んだ文そのままの意味なのですが、色々と想像をめぐらせて自由に楽しむことができます。
読み手それぞれに好きなストーリーが思い浮かぶと思いますが、私はこんな物語を想像しました。
お母さんが編んでくれた手ぶくろでしょうか。桔梗色は、青みのある紫色です。女の子のものにしてはシックな色なので、もしかすると、お母さんが自分のセーターをほぐして編み直してくれたものかもしれません。
大切にしていたのでしょうけれど、今、手元には片方の手ぶくろしかないのです。雪がが降ると、いつも思い出すのでした。
あの日は、雪が降って、家並みも、木々もすべて真っ白でした。いつもとは違う風景に浮かれて、私は雪の上を転がりまわって遊んでいました。
気がつくと、大事な手ぶくろの片方が見当たりません。どこに落としてしまったのだろう、懸命にあたりをさがしましたが見つかりませんでした。
夕方になって、あたりが暗くなるまでみつけましたがありません。せっかく編んでくれたお母さんはなんと言うだろう、きっと叱られる。泣きながら家へ帰ると、心配したお母さんが、心配して戸口に立っているのでした。
残ったもう片方の手ぶくろを眺めると、なぜか愛おしい、幼いあの日の想い出や、寒さでかじかんだ手をやさしく温めてくれた母のぬくもりを思い出すのでした。