竹下夢二の「わすれな草」を読みました。
絵入り小唄集『どんたく』の中の一篇です。青空文庫で読めます。→図書カード:どんたく 底本は、『どんたく』(1993年中公文庫)。初版発行は1913年(大正2年)『どんたく』(実業之日本社)です。
竹久夢二は、1884年(明治17)年生まれの日本画家、詩人です。夢二式美人として有名な美人画を多数描いていて、大正ロマンを代表する画家です。詩や歌詞、童話なども書いていて、「宵待草」は曲がつけられて愛唱家として親しまれています。
わすれな草
竹久夢二
袂(たもと)の風を身にしめて
ゆふべゆふべのものおもひ。
野(の)ずえはるかにみわたせば
わかれてきぬる窓の灯(ひ)の
なみだぐましき光(ひかり)かな。
袂(たもと)をだいて木によれば
やぶれておつる文(ふみ)がらの
またつくろはむすべもがな。
わすれな草(くさ)よ
なれが名(な)を
なづけしひとも泣きたまひしや。
絵入り小唄集『どんたく』の中では、「日本のむすめ」というタイトルの後に、「宵待草」があって、その次にこの「わすれな草」が置かれています。
竹下夢二の美人画そのままの詩です。文語体なのでわかりにくい部分もありましたが、あえて語釈を考えずにイメージで読んでみました。
袂をゆらす風が身に染みる夕べに、娘がひとりたたずんで遠くを見ています。はるかな野末のその先には、涙ながらに別れてきた、あのお方の家の灯があるのです。
袂を胸に抱きしめて、木に寄りかかってみれば、文(手紙)がはらりと落ちるのでした。破れるほどに何度も読み返した文なのでしょう、繕うすべもなく破れたまま大切に身につけて持っていたのです。
「わすれな草よ」と娘は呼びかけます。はじめてお前の名をつけた人も、私のように恋しい人を思って泣いたのかしらと。
なんとも一途で純情な娘の思いが描かれています。木の下にたたずむ女性は、樹下美人の構図として古くから描かれてきたモチーフですが、この詩もまさに、もの思いに樹下にただずむ女性、樹下美人図の構図を表現しているように感じます。