長田弘の「スラップスティック・バラード」を読みました。
『長田弘詩集』(ハルキ文庫)に掲載されている1篇。初出は『言葉殺人事件』(1977年晶文社)です。
長田弘は1939年福島生まれの詩人、児童文学家、文芸評論家です。
早稲田大学文学部在学中に詩誌「鳥」を創刊、雑誌「現代詩」「詩と批評」等の編集に参加しました。2015年胆管癌のため75歳で亡くなっています。
スラップスティックとは「slapstick」道化師が手にしている棒のことで、ドタバタ喜劇というような意味です。
バラードとは、「ballade」古いヨーロッパの詩の形式の一つで、日本では譚詩(たんし)とも言われます。普通3~5連で、各連の最終行が繰り返し(リフレイン)になっています。
この詩も、繰り返しが面白い詩です。最終行ではなくて、1連2行のうちの最初の行が繰り返しになっているのですが。繰り返しの1行目と、変化して行く2行目が面白い。
なんだ? なんだ? と思っていると、7連目、8連目のオチでクスッという笑い。
単純に言葉遊びの面白さ、繰り返しのユーモアを楽しむ詩です。
最近のお笑いではあまり見られなくなりましたが、昔の漫才やコントには、よく繰り返しのユーモアが使われていました。
同じ行動を何度も、何度も繰り返して、ほんの少しずつ変化させながら、オチへ導くというやり方です。
この詩を読んでいて、若い頃見た、故・坂上二郎さんのオペラでの演技を思い出しました。「メリー・ウィドー」だったか、演目は忘れてしまいましたが、二郎さんが二期会のオペラに出演されたことがあって、たまたま見に行った時に出演されていました。
二郎さんの役は執事で。主人から受け取ったシルクハットを壁のフックに掛けるというシーンでした。最初に掛けた時にうまく行かずシルクハットは床に転がってしまいます。2度目の挑戦、3度目の挑戦と繰り返すと客席からはクスクス笑いが起こります。そして、最後のに見事掛かった時には盛大な拍手と笑いでした。
そのシーンだけが、何十年もたった今でも思い出せます。単純な繰り返しのようでいて、客席の雰囲気を察して演技に変化を付けるという高度な芸だったように思い出します。
深刻な悩みだったり、心の奥を暴露したり、詩は詩人の内面を表現することが多いですが、この詩のように、軽やかに言葉の面白さをユーモラスに表現する詩に心惹かれるものを感じました。