八木重吉の「踊」を読みました。『定本八木重吉詩集』弥生書房・刊)収録の1篇です。
詩集『貧しき信徒』には愛娘の桃子を詠った詩がたくさんあって、その中のひとつです。
踊
八木重吉
冬になって
こんな静かな日はめったにない
桃子をつれて出たら
櫟林のはずれで
子供はひとりでに踊りはじめた
両手をくくれた顎のあたりでまわしながら
毛糸の深紅の頭巾をかぶって首をかしげ
しきりにひょこんひょこんやっている
ふくらんで着こんだ着物に染めてある
鳳凰の赤い模様があかるい
きつく死をみつめたわたしのこころは
桃子がおどるのを見てうれしかった
結核で30歳で亡くなってしまった詩人は、この詩を書いた頃にはすでに病を得て療養中だったのでしょう。
静かな冬の日に娘と散歩に出た時のことが、飾りけなく素直な言葉で描かれています。
桃子ちゃんは父親との散歩が、よほど嬉しかったのでしょう。いつもつらそうにしている父が、久しぶりに調子が良さそうなのもあって、気持ちが浮き立ったのかもしれません。自然に手が動いて足が動いて踊りだしたのです。
それをやさしく見る父親の目は、あどけない我が子の可愛さを噛みしめながらも、この子の成長の途中に、自分の死があることを意識しているように推測されます。
人生をはじめたばかりの生気に満ちた我が子と、病に冒され死の予感を感じざるをえない我が身との対比が切なくて、心をしめつけられます。